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「地政学の本質」を問い直す
地政学とは「その国の元首になる"ロールプレイングゲーム"」
「『地理』と『6つの要素』にその国の条件を入れ込むことで、『その国のトップの考え』が決まる思考の枠組み」が「地政学の思考法」だ。
6つの要素は以下のとおりである。
- 気候
- 周辺国
- 民族性
- 産業
- 歴史
- 統治体系
本書では、今何かと地政学リスクについて話題を提供してくれているロシアを例に考えている。
自らをクレムリンの執務室において、価値判断はせずに、自分がプーチンならどうするかを考えてみることに意義はある。もちろん、違うオプションを導き出すことを試みるなど、相手の立場に立つことはとても重要である。この訓練はビジネスに役立つだけでなく、実際の和平交渉やその進展を読むことにおいても有意義だ。
それでも、やっぱり「地理」は大事なワケ
「地理」が「6つの要素」すべてを決める
我々は世界中ほぼどこにでも旅ができて、ほぼ世界中からスマホ一つで色々なものをオーダーできる時代に生きている。しかし、地理による運命を書き換える能力はまだまだ我々人類は手にしていないのだ。
ウクライナ戦争も台湾情勢も朝鮮半島情勢もすべてが地理的な運命から来ている部分が大きい。
天候は地理に左右される。日本に台風が来るのも、台風発生地帯より南に位置するシンガポールで台風がないのも地理のせいだ。
地理的な位置で国民性も影響を受ける。大陸的、島国根性、半島感情など色々言われるが、それらも一理ある。
天候や国民性や周りの国々により、その国の統治体系も影響を受ける。地理的な位置で、獲れる食物も利用できる資源も左右される。そこから起こってくる産業も変わってくる。
今まで述べた要素によって歴史が作られる。
かつてパンゲアという一つの大陸だった我々が住む世界も6つの大陸と多くの島に分かれてしまった。その後、我々人類が誕生した。そしてどこに住むのかによって我々の運命は左右されるようになってしまったのだ。
「地政学の思考法」6つのキーコンセプト
本書では6つのキーコンセプトが紹介されているが、ここでは2つ紹介する。
①【産業】地理が決まれば、産業が決まる
「地理」が決まれば、「産業(構造)」が決まる。産業革命は西欧と日本でしか広まらなかった。その背景には封建制度の誕生がある。封建制度は、
- 豊かな土壌
- 豊富な水資源
- 緩やかな分権的統治
- 騎馬民族の不在
という条件が揃った場所にしか生まれなかった。
封建制度が生まれて余剰生産と貴族が生まれた。小金持ちとその人たちが投資に回せるお金が生まれたのだ。その人たちが農業の生産性を向上させることでさらに儲けられることに気づいた。彼らが資本主義の担い手になったのだ。
印刷、コンパス、火薬の三大技術が生まれたのは中国である。しかし、中国は技術を産業革命に活かせなかった。それは中国では封建制度が生まれる余地がないほどの中央集権体制が敷かれていたからであった。
②【歴史】地理が決まれば、歴史が決まる
地理が決まれば、気候、周辺国、民族性、産業が決まってくる。そうなればその国の歴史も決まるといっていい。
特に大国が相互確証破壊につながる核兵器のような強力な軍事力を持つことにより、大国同士が直接の戦いを避ける場合、その大国の間に位置する国々(リムランドとも言う)が大国の代理戦争の舞台になってしまうことがある。今のウクライナがそれにあたる。
また、国家の指導者の重要意思決定は歴史に影響される。ロシア帝国の復活を夢見るともいわれるプーチン氏が大帝国であった過去の栄華を忘れられず、ロシアが国家として凋落する中で、危険な賭けに出ることがある。
その他の骨格理論
マッキンダーの「ランドパワー対シーパワー」
「地政学の祖」と呼ばれるのがイギリスのハルフォード・マッキンダーだ。世の中の国は「ランドパワー(大陸国家)」「シーパワー(海洋国家)」に大別されるとの理論で、「人類の歴史は『ランドパワー』と『シーパワー』の戦いである」と提唱した。
ランドパワーとは、ユーラシア大陸にある大陸国家で、「国境の多くを他国と接している国々」である。ロシア、中国、ドイツ、フランスなどが代表国である。
シーパワーとは「国境の多くを海に囲まれた国々」である。イギリス、日本、アメリカといった島国が代表的。
ランドパワーは土地を占領することにこだわる傾向がある。一方で、シーパワーは貿易や金融を通じて影響を与え続けることを目指す傾向がある。
特筆すべきは、ランドパワーとシーパワーの二刀流は歴史上、両立し得ないといわれることだ。限られた自国の軍事力を海軍か陸軍か、自国の特性に応じて選択と集中をさせる必要があるからだ。
のちに詳述するが、中国は史上初めてランドパワーとして海洋進出するシーパワーとの二刀流を目指している。さてどうなるか?