yagibrary

あだ名のやぎと図書館のlibraryを組み合わせてyagibraryです。本から学んだことをみなさんに紹介します。

【本要約】田村耕太郎【地政学が最強の教養である】第3章 「島国」の地政学 アメリカ

目次

「島国」の地政学の基本

まずアメリカを見ていこう。アメリカより恵まれた国はないと思うくらい恵まれているのが巨大な島国「アメリカ」だ。大西洋と太平洋という天然の大要塞を横断してアメリカを上陸攻撃できる勢力はない。

 

気候についても、北米大陸の中でも最も気候のよい緯度を独占している。

 

そして誕生当時から移民で出来上がったこの国家は、世界中からリスクを取ってやってくる進取の精神にあふれる人々が作り上げた。

 

ランドパワーを経てからシーパワーになる

シーパワーの国は領土拡大に固執しない。まず、陸続きのランドパワーと違って、島国シーパワーにとって、他国の領土を侵略し、そこを統治することは、飛び地の支配に他ならない。補給も容易ではなく、文化も統治体系も違う飛び地を支配するのは容易ではない。

 

それより、交易や金融を使って、飛び地でも影響を与え続ける方が効率的である。そして、徐々に自国に有利な国際秩序を構築してシステムで疑似コントロールをする方が理に適っているのだ。

 

「島国であり、ランドパワーからシーパワーになり、その後、工業生産で経済力をつけ、海洋国家として世界大戦に参加」というこの経路はアメリカも日本も重なる歴史を持っている。

 

アメリカの地政学

空気が支配しない国家

アメリカが地政学的に見てユニークだと思える点は、他国の歴史と異なり、王族や貴族、皇帝といった選挙によらない絶対的な権力を持つ君主が、国を統治していなかった点だ。

 

アメリカは、全くのゼロ状態から移民を中心に国を作っていった。

 

特にイギリスで政治のプロの集団である代議制議会に国家運営をまかせる議院内閣制度の問題を感じ取ったアメリカの建国者たちが、自分たちが直接選出する代表に行政を任せる大統領制を生み出したことは興味深い。

 

世界中から様々な文化や宗教を背景に持った人々が自由と成功を求めて自発的に集まり、権利を主張し合うアメリカ社会。それらの人々を統治するには、日本のような同調圧力という空気による支配は無理だ。宗教や文化の壁を越えて説得力を持つのはデータに基づいた科学的議論である。

 

ダイナミックなアメリカ社会を支えてきたのは、アメリカンドリームという社会的流動性(敗者復活・再チャレンジ)。行動力とアイデアがあれば誰もが成功するといわれてきた。しかし、昨今は、経済力の格差が広がり、それが子弟の教育格差も固定化し始め、経済力がある家庭に有利なテクノロジー教育がいかなる成功にも不可欠な時代が進むとともに、社会的流動性が失われ始めた。

 

白熱する米中覇権争いの現状

歴史を振り返ると、アメリカはソ連というランドパワーの大国と対立する構図が、長きにわたり続いていた。

 

アジアや中東などの小国をある意味利用し、米ソの代理戦争を繰り返してきた。だが、シーパワーとして成長を続けるアメリカに対し、ソ連は崩壊し、冷戦構造は終結を迎えた。

 

2013年にオバマ大統領は「アメリカはもう、世界の警察官ではない」と公言した。そのきっかけは、冷戦構造終結にある。

 

世界で最も恵まれた大きな島国アメリカは、そもそもは内向きなのである。冷戦の脅威が去った時を迎えて、莫大な軍事コストを抑えて、リソースをより内政にシフトしようという考えであった。

 

一方で、アメリカには、自分たちは覇権国家であり続けたい、との思いはある。

 

特に、アメリカの三大重要地域の中でも、最大の人口とGDPを持つアジアで、アメリカの覇権に挑戦する国である中国が台頭していることはアメリカを悩ませている。

 

実際には中国が覇権国家となるにしても、まだ相当の時間がかかると思うが、アメリカは対中国にリソースを集中し、軍事、金融、テクノロジーなどをあらゆる手段で阻止してくるだろう。それでも世界最高の投資家の一人、レイ・ダリオ氏は、いずれ中国がアメリカを抜いて覇権国家となると見ているのが興味深い。

 

国内の分断で帝国アメリカは凋落するのか?

そのレイ・ダリオ氏は覇権国家の凋落の理由として、「覇権国家の内政の混乱悪化→内戦化」を挙げている。最近の同氏は、アメリカの貧富の格差の拡大や政党同士の競争を超えた憎しみ合いの激化は、アメリカ国内における内戦の始まりだという論調をメディアに披露し始めている。

 

今の資本主義の仕組みでは、元手がある人に情報や機会がさらに集まるようになっているので、貧富の格差は開いていく一方に思える。欧州や日本のような大きな政府による介入を喜ばない、自助の精神で集まってきた祖先によって作られた国家なので、アメリカで政府が介入して貧富の格差を是正するのは簡単ではないと著者は思う。

 

帝国の凋落の始まりなのか?内戦ぼっ発のきっかけとなるのか?アメリカの貧富の格差や党派対立の激化から目が離せない。