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【本要約】田村耕太郎【地政学が最強の教養である】第4章 「内陸×大国」の地政学 ロシア

目次

ロシアの地政学

不凍港」を求めて常に他国へ進出

居住や食糧生産に適した領土に加えて、不凍港を求めて南方や西へ進出するのが、ロシア地政学の大鉄則であり、進出する度に戦争を繰り返してきた。

 

1853年から行われたクリミア戦争は、ロシアが黒海ルートを使って南下し、黒海沿岸の支配権を得たいために起きた戦争だ。今まさにロシアとウクライナの戦いでも要所となっている箇所であり、歴史は繰り返されていることがわかる。

 

結果、ロシアはクリミア戦争で敗北。すると今度は目を東方に向け、ウラジオストク周辺の制圧を目指す。ウラジオストクとは、ロシア語で、「ウラジ=ヴォストーク」で、"東方を征服せよ"を意味する。

 

ウラジオストク港を建設すると、ロシアは首都モスクワに直結する鉄道の建設を始めた。

 

工事着工から25年ほどの1916年、モスクワからウラジオストクまでの9289km全線が開通。開通から100年以上経った現在でもシベリア鉄道は運行を続けており、ウラジオストクからモスクワまでを7日間かけて走行。世界一長い鉄道である。

 

ハートランド」と「リムランド」

1904年に地政学マッキンダーが提唱したハートランド理論ハートランドとは、ユーラシア大陸の心臓部あたりの地域を指す言葉で、現在であればロシアはハートランドの中心に位置する。人が住むには厳しく文明は発達していないが、このエリアを押さえるものがユーラシア大陸を押さえ、世界の覇権国になるというのがマッキンダーの考えだ。

 

このハートランド理論を踏まえた上で、アメリカの学者ニコラス・スパイクマンが提唱した新たな地政学理論がある。「リムランド」だ。ロシアの歴史は常にリムランドへの侵攻の歴史だったため、ロシアの地政学を語る上で切っても切れない理論である。

 

リムランドのリムは「周縁」を意味し、ハートランドの周縁、南西から南東に位置するエリアを指す。ハートランドのように鉱物や石油などのエネルギー資源には恵まれていないが、逆に、一般的には雨が多く水が豊かで気候が温暖な地域が多いため、人が定住しやすく、農業からその後の二次、三次産業まで発展しやすい。

 

なぜ、ハートランドを押さえたものが世界を制覇するとマッキンダーは考えたのか。資源だけでなく経済、人も兼ね備えた地域であるアジア、中東、ヨーロッパすべての場所へつながる拠点がハートランドだからである。

 

地政学的な国の特徴を示すシーパワー、ランドパワーと紐づければ、ハートランドに位置する国はランドパワーに、沿岸部のリムランドに位置する中小国は、シーパワーになりやすい。

 

リムランドはロシア・中国といったランドパワー大国と、シーパワー国家(その背後に構えるアメリカも含め)との衝突の場所でもある。だから、ニコラス・スパイクマンがリムランドを提唱して以降は、リムランドを制したものが世界を制する、とも言われている。

 

ハートランド理論の限界

ハートランド理論は陸上輸送に固執し過ぎて、海上輸送や航空輸送を十分に考慮していない。そして情報(金融)経済やデジタル経済の登場まで予測できていなかった。

 

マッキンダーは、イギリス人であることもあり、ドイツとロシアを極度に警戒していた。ハートランド理論は、ロシアとドイツを囲い込むために政治的に地理を利用した理論であると言える。ロシアやドイツに注目し過ぎたために、アメリカや日本の台頭を見逃したとも言える。

 

気候変動が経済の流れを変えた「北極海ルート」

一昔前、北極海は氷で覆われていたため、通行することができなかった。

 

ところが近年、地球温暖化などの影響で、これまで凍っていた北極海の氷が溶け、夏の間、航行可能になってきた。実際、2022年に入ってからは、北極海の氷面積の大きさが、観測史上最小記録を更新している。

 

ヨーロッパへの距離が4割短くなる

なぜ「北極海ルート」が注目されているのか。「北極海ルート」ができる前、欧州からアジアへ向かうルートは、スエズ運河マラッカ海峡というチョークポイントを介したものだけだった。

 

横浜港からオランダのロッテルダム港までの距離は約2万1000km。長距離に加え、海賊に襲われるリスクがある。

 

対して北極海ルートが実現すれば、距離は南回りに比べ約1.4万kmと短くなる。輸送時間の短縮はもちろん、燃料費、温室効果ガスも削減できる。加えて天然のコールドチェーンなので薬品や食糧の輸送には適している。そして極寒の北極海ルートには海賊がいない。

 

日本はもちろん、韓国や中国、アジア諸国から見ると、日本の北海道、特に釧路が北極海ルートの重要拠点となる可能性が高い。

 

今、中国企業が北海道の土地を買っているのは、この理由もある。

 

一方で、課題も多い。現時点で航行できるのは氷が溶けている夏季の2か月間だけであること。ロシアへの事前許可が必要であり、ロシアが保有する砕氷船に先導してもらい、費用を支払う必要がある。

 

北極海ルートのトピックスから見えるのは、いかに気候変動が地政学を変えるかということだ。