はじめに
科学者たちは長年、私たちの脳は、複雑な機械にあるような、トップダウンの構造をもっているのではないかと推測していた。人が何かを思い出すときは、海馬が高速コンピュータのように作動し、特定の神経細胞からその記憶を取り出す。
この理論を証明するには、ある記憶をたどると、その思い出に対応する神経細胞が活性化する、ということを示さなくてはならない。
結局、記憶と神経細胞の間には、はっきりした相互関係はなく、法則性のない動きしか見られなかった。
この謎を解いたのは、ジェリー・レッドビンというMITの科学者だった。彼は、ある記憶の断片が一つの細胞に保存されているという見方そのものが間違っているという考えを示した。
脳が分散した構造をもっていることは、感覚的には理解しにくいが、脳が丈夫なのはこの構造のおかげだ。
脳内だけでなく、外の世界にあっても、私たちは秩序を自然と求めるものだ。
本書が検証するのは、管轄する人間がいなかったらどうなるかということだ。
ショーン・ファニングやオサマ・ビンラディン、クレイグ・ニューマークの例が挙げられていた。
しっかりした構造や指導者、形式的な機構を欠くことは、かつては組織にとって弱点とみなされたが、今では重要な強みになっている。一見まとまりがない人の集まりが、権威のある組織に挑戦し、打ち勝っている。ゲームのルールが変わったのだ。
ルールの変化は、アメリカ最高裁判所で白日の下にさらされることになる。そこでは、注目を集めたある裁判が、驚くべき奇妙な展開を見せようとしていた。