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【サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福】第2章 虚構が協力を可能にした その2 ゲノムを迂回する

言葉を使って想像上の現実を生み出す能力のおかげで、大勢の見知らぬ人どうしが効果的に協力できるようになった。だが、その恩恵はそれにとどまらなかった。人間どうしの大規模な協力は神話に基づいているので、人々の協力の仕方は、その神話を変えること、つまり別の物語を語ることによって、変更可能なのだ。


このように、認知革命以降、ホモ・サピエンスは必要性の変化に応じて迅速に振る舞いを改めることが可能になった。これにより、文化の進化に追い越し車線ができ、遺伝進化の交通渋滞を迂回する道が開けた。


他の社会的な動物の行動は、遺伝子によっておおむね決まっている。一般に、遺伝子の突然変異なしには、社会的行動の重大な変化は起こりえない。


それと同じような理由で、太古の人類は革命はいっさい起きなかった。私たちの知るかぎりでは、社会的パターンにおける変化や、新しい技術の発明、馴染みのない生息環境への移住は、文化に主導されてではなく、遺伝子の突然変異や環境の圧力によって起こった。


それとは対照的に、サピエンスは認知革命以降、自らの振る舞いを素早く変えられるようになり、遺伝子や環境の変化をまったく必要とせずに、新しい行動を後の世代へと伝えていった。


言い換えれば、太古の人類の行動パターンが何万年間も不変だったのに対して、サピエンスは社会構造、対人関係の性質、経済活動、その他多くの行動を10年あるいは20年のうちに一変させることができた。


これこそがサピエンスの成功のカギだった。


私たちはネアンデルタール人の頭の中に入り込んで彼らの思考方法を理解することはできないものの、ライバルのサピエンスと比べたときに、彼らの認知的能力の限界を示す間接的な証拠はある。


交易は、虚構の基盤を必要としない、とても実際的な活動に見える。ところが、交易を行なう動物は、じつはサピエンス以外にはなく、詳しい証拠が得られているサピエンスの交易ネットワークはすべて虚構に基づいていた。


もしそのような虚構を信じている太古のサピエンスが貝殻と黒曜石を交換していたとしたら、情報も交換して、ネアンデルタール人ら、他の太古の人類のものよりも格段に濃密で広範なネットワークを生み出せたと考えるのは理に適っている。

狩猟の技術も、こうした違いを浮かび上がらせてくれる。ネアンデルタール人はたいてい単独で、あるいは小さな集団で狩りをした。一方サピエンスは、何十人もの協力、ことによると異なる生活集団間の協力にさえ頼る技術を開発した。


そして、サピエンスはたとえ初戦を落としても、たちまち新しい戦略を編み出し、次の戦いに勝利を収めることができた。