アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで開催されたストリング理論に関する国際会議「Strings 2025」の朝のセッション2では、超対称性と巨大演算子に関する講演が行われました。セッションの冒頭で、司会のアーメッド氏は、朝のセッション1の対称性の議論からレベルを上げ、超対称性へとテーマを進めることを宣言しました。
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ペドロ・ビエイラ氏による講演:巨大演算子とホログラフィー
最初の講演者であるペドロ・ビエイラ氏(講演タイトルはHuge Operators)は、巨大演算子(huge operator)に関する最近の研究について発表しました。
- 巨大演算子とは、系に作用させると真空を変化させるほどバックリアクション(back reaction)が重要な演算子のことです。
- ビエイラ氏らは、これらの非常に重い演算子の相関関数を研究し、AdS/CFT対応(AdS/CFT correspondence)やホログラフィー(holography)が、このような巨大演算子の存在下でどのように機能するかを理解しようと試みました。
ビエイラ氏は、演算子を軽い(light)、重い(heavy)、巨大(huge)の3つのカテゴリーに分類しました。
- 軽い演算子:グラビトンや光子のように、量子的な振る舞いをする演算子。
- 重い演算子:次元が大きく、古典的な軌跡に従う弦やDブレーンのような演算子。
- 巨大演算子:次元が
のオーダーで、幾何学にバックリアクションを起こすほど重い演算子。巨大演算子は時空を歪ませ、その近傍の計量を変化させます。
重い-重い-軽い(heavy-heavy-light)相関関数は、新しい幾何学におけるプローブの期待値として理解でき、AdS/CFTの高精度検証に役立ちます。新しい幾何学におけるプローブとは、巨大演算子によって作り出された新しい時空構造の中で、その構造を調べるために用いられる軽い演算子のことです。一方、重い演算子3点関数は、宇宙の分裂のようなトンネル過程として理解でき、重い-重い-軽い相関関数とは大きく異なります。
N=4超対称ヤン-ミルズ理論における巨大演算子の3点関数
ビエイラ氏らは、N=4超対称ヤン-ミルズ理論(N=4 super Yang-Mills theory)における1/2 BPS演算子(1/2 BPS operator)という特別なクラスの演算子に焦点を当てて研究を進めました。
- 1/2 BPS演算子は、複素スカラーのトレースとして定義され、ヤング図で分類されます。
- これらの演算子の相関関数は、超対称性により結合定数に依存せず、ゼロ結合で計算できます。
- 巨大演算子は、ヤング図の各行にN個のオーダーのボックスを持つ、大きな表現に対応します。
ビエイラ氏らは、3つの巨大演算子の3点関数を、3つの密度汎関数として求める問題を考察しました。この問題は、3つの行列模型(three matrix model)として定式化できます。
古典極限と流体モデル
行列模型の古典極限(classical limit)を取ることで、この問題は流体モデル(fluid model)に帰着します。
- 3点関数は、6本のパイプの中を流れる流体の作用として記述されます。
- 各パイプの接合部では、流体の密度と速度に関する条件が課されます。
- この流体は、負の圧力を持ち、rational Calogero-Moser模型と呼ばれる可積分模型として記述できます。
ビエイラ氏らは、この流体モデルを用いて、3点関数の具体的な計算例を示しました。