【サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福】第1章 唯一生き延びた人類種 その0
およそ7万年前、ホモ・サピエンスという種に属する生き物が、なおさら精巧な構造体、すなわち文化を形成し始めた。そうした人間文化のその後の発展を「歴史」という。
歴史の道筋は、3つの重要な革命が決めた。
- 約7万年前に歴史を始動させた認知革命
- 約1万2000年前に歴史の流れを加速させた農業革命
- わずか500年前に始まった科学革命
3つ目の科学革命は、歴史に終止符を打ち、何かまったく異なる展開を引き起こす可能性が十分にある。本書ではこれら3つの革命が、人類をはじめ、この地上の生きとし生けるものにどのように影響を与えてきたのかという物語を綴っていく。
先史時代の人類について何をおいても承知しておくべきなのは、彼らが取るに足らない動物にすぎず、環境に与える影響は微々たるもので、ゴリラやホタルやクラゲと大差なかった点である。
生物学者は生き物を「種」に分類する。動物の場合、交尾をする傾向があって、しかも繁殖力のある子孫を残す者どうしが同じ種に属すると言われる。
共通の祖先から進化したさまざまな種はみな、「属」という上位の分類階級に所属する。生物学者は2つの部分(前の部分が属を表す属名、後ろの部分が種の特徴を表す種小名)から成るラテン語の学名を各生物種につける。そして、本書の読者はおそらく全員、ホモ(ヒト)属のサピエンス(賢い)という生き物である「ホモ・サピエンス」のはずだ。
属が集まると「科」になる。ある科に属する生き物はみな、血統をさかのぼっていくと、おおもとの単一の祖先にたどり着く。
ホモ・サピエンスも一つの科に属している。このごく当然の事実はかつて、歴史上最も厳重に守られていた部類の秘密だった。親類がなく、兄弟姉妹やいとこも持たず、これがいちばん肝心なのだが、親すらいない、完全なる孤児というわけだ。だが、それは断じて間違っている。好むと好まざるにかかわらず、私たちもヒト科と呼ばれる、大きな、ひどくやかましい科に所属しているのだ。