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【本要約】田村耕太郎【地政学が最強の教養である】第4章 「内陸×大国」の地政学 中国

目次

「内陸×大国」の地政学の基本

厳しい気候の広い国土が恐怖と苦労を助長する

ここでは次に「内陸×大国」、すなわちユーラシア大陸の「ランドパワー大国」である中国とロシアについて、見ていく。

 

ロシアも中国も国土は広大だが、ロシアの国土の約8割には人が住んでおらず、中国の国土の約2割は砂漠化している。加えて、両国とも戦闘力と機動力にあふれ、容赦ない破壊行為を行う騎馬民族に脅かされ続けてきた。

 

そもそも国土が大きくて、住める地域が限られていたし、異民族の襲撃から身を守るためには、国土を拡張し、異民族を制圧し続けるしかなかった。拡張すればするほど国境線が延び、国内にも制圧した異民族が増え、内外に恐怖を増やしてきた。外の敵にも内の敵にも対応するためには強権を発動できるリーダーが必要だった。

 

食糧生産やインフラ整備のためにも強権は必要だった。国土開発や灌漑や洪水の対策のためには、大量の人員を動員した土木工事が必要で、そのためにも国土を大きくして人口を増やす必要がある。

 

中国、ロシアはあれほど広い国土を持っているにもかかわらず、なぜ領土に執着するのか?すべての行為が正当化されるわけではない。しかし、現実的で持続的な和平構築のためには、国家の行動の背景にある地理的制約に我々は思いを馳せるべきであろう。

 

中国の地政学

人口はすでに減少し高齢化が顕著に

中国の人口は国連によると2022年(7月1日時点)に14億2589万人。国連は中国の人口は2022年時点ですでに減少に転じたとしている。2023年にはインドの人口が中国を上回り、世界最多の人口を有する国になる見込みだ。

 

中国国家衛生健康委員会によると、中国における65歳以上の高齢者数は1億9064万人で、日本の総人口を上回る高齢者がすでに存在することになる。高齢化率は13.5%に達した。中国の平均年齢は38.8歳でアメリカの38歳を上回るが、日本の45.9歳よりはまだ若い。

 

人口減少と高齢化は中国の今後の対外行動にも少なからず影響を与えるであろう。

 

史上初「ランドパワー」と「シーパワー」の二刀流になるか?

中国のシーパワーへの転換に関しては、アンドリュー・エリクソンらが、『大陸国家が海に向かうとき』と題した論文において、中国のようなランドパワーがシーパワーへと転換できるか、その可能性を論じている。エリクソンらによれば、

  • 過去の歴史を振り返れば、ランドパワーからシーパワーへの転換は幾度か試みられてきたが、そのほとんどが失敗
  • 成功例としてはペルシャとローマ
  • ただ、その両国でも、早期転換は困難であった

しかしながら、彼らは、中国が、以下のような点に転換できなかった国とは違う可能性があるという。

  1. 力強い海洋経済
  2. 高い造船能力
  3. 陸上国境を接するほぼすべての国々との国境線が確定済み
  4. シーパワーへの転換を国家の当然の方向として支持・サポートする指導者の存在

―過去の失敗例とは違い、中国はこれらの利点に恵まれているので、結論として、中国はシーパワーへの転換の可能性ありと見ている。特に中国は、歴史から教訓を学んでおり、過去にシーパワーへの転換を目指しながら失敗したランドパワー国家と同じ過ちを繰り返すとは限らないという。

 

香港問題―失われない重要性

元々天然の良港だった香港が中継貿易港として発展した。香港島周辺の海は十分な水深があり波も穏やかだった。そして背後に中国という巨大な市場があった。その後香港は見事に工業化に成功し、それまでの「中継貿易港」から「加工貿易港」として付加価値化に成功。

 

世界有数のコンテナ港を擁する香港は、依然として主要貿易拠点であり続けている。中国にとって最大の市場はいまや米国からASEANに変わり、香港にとっても、中国を除けばASEANが最大の貿易相手国となった。アジア各国にとってますます香港の貿易港としての重要性は増している。

 

金融分野では、今でもアジアナンバーワンで世界有数の強力な力を持つ。香港は今後とも世界と中国との重要な架け橋としての役割を果たしていくだろう。