yagibrary

あだ名のやぎと図書館のlibraryを組み合わせてyagibraryです。本から学んだことをみなさんに紹介します。

【本要約】田村耕太郎【地政学が最強の教養である】第3章 「島国」の地政学 日本

目次

日本の地政学

沖縄に世界最大の米軍基地がある経済的理由

世界の警察と呼ばれるアメリカは、日本に限らず世界各地に800以上の基地を構えている。中でも沖縄の基地は世界最大級で、沖縄本島の約15%を占める広さである。

 

なぜ、ここまで大きな基地を、沖縄に置いているのか。地政学的に捉えると、日米双方にメリットがあるからだ。

 

日本にとっての最大のメリットは、日本の物流のチョークポイント、ホルムズ海峡、マラッカ海峡台湾海峡というシーレーンを米軍によって保護してもらうことだ。

 

特にホルムズ海峡周辺には重要な関所であることを逆手に取り、タンカーを襲撃する海賊が頻繁に出現する。

 

アメリカ側のメリットは沖縄のロケーションだ。これだけ等距離(1万km内)で世界中の都市を射程に入れられるロケーションは他にはないのだ。

 

米軍から見て、沖縄のインフラは世界一だ。

 

日本の社会インフラや技術力や治安の良さは実は米軍が他の地域では得難いものだ。沖縄ほど気候も素晴らしく家族で治安よく暮らせる場所はない。

 

沖縄以外にも本土、神奈川県横須賀にも、アメリカ海軍に欠かせない基地がある。沖縄でも横須賀でも、日本のインフラや技術力や人材の質の高さが、アメリカ軍を支えているのだ。

 

横須賀に拠点を構える理由も、ロケーションが大きい。横須賀に第7艦隊を置くことで西太平洋からインド洋まで、世界の海の約半分を監視することができるからだ。

 

中国が「尖閣諸島」にこだわるワケ

尖閣諸島問題の本質は、中国と日本列島が入った地図をひっくり返してみるとはっきり見えてくる。

 

南北に長大な日本列島は、中国本土から見て、中国の海洋進出を見事にブロックする海上万里の長城なのだ。

 

その天然の万里の長城が途切れてぽっかり開いた場所が尖閣諸島なのだ。

 

ランドパワーとしてシーパワーとの二刀流を目指す中国としては、尖閣諸島は太平洋へ進出する出口として確保したい場所なのだ。

 

中国としては深い海を確保する狙いもある。意外に知られていないが、核兵器を抑止力とするには保有するだけでは十分ではない。核兵器が抑止力となるのは、相互確証破壊、つまりお互いが「こっちが攻撃したら間違いなく自分もやられる」と確信する場合だけだ。

 

そのためには何が必要か?核兵器の所在地をわからなくすることだ。いくら大量に所有していてもその所在地がわかれば、先制攻撃で無力化されてしまう。では、どこに隠せばいいのか?

 

それは深い海の中だ。そう、長時間深海で活動できる原子力潜水艦の中に保有するのだ。

 

しかし、原子力潜水艦を開発して保有できるだけでは十分ではない。自分の領海内に深い海を持っていないと原子力潜水艦を隠せないのだ。残念ながら中国の領海、主に黄海は深度が浅い。深度1000メートル級の深い海でしか原子力潜水艦を有効に隠すことはできない。

 

中国にとって、深い海である南シナ海は喉から手が出るほど欲しいのだ。

 

なぜ、中国は尖閣諸島が欲しいのか。最大の理由の一つは台湾にある。台湾有事に備えるため、台湾の東側の海域を押さえたいからであろう。

 

台湾より先に韓国を心配せよ

東アジアの地政学リストとしては台湾有事が最優先といわれる。しかし、もう一つ日本にとって危惧される場所が近くにある。韓国である。

 

中国と陸続きの半島国家、韓国が中国から受けているプレッシャーは我々島国の日本人は想像できないかもしれない。半島とは大陸に直結しており、背後は海なのだ。文字通り背水の陣で中国という超大国と向き合っているのだ。

 

また、韓国における中国の経済的な影響力も日本とは比較にならない。中国は韓国の最大の貿易相手国だが、今までは「中国は韓国のお得意様」という形で、韓国が対中貿易で稼いでいた。ところが、中国と韓国の経済関係が転機を迎えている。韓国経済を中国経済が支配し始めていると言っていいのかもしれない。

 

もし朝鮮半島が中国の支配下に入ってしまえば、台湾有事への影響もその可能性も大きく変わってくる。ひょっとすると陸続きの韓国の方が、天然の要塞とも言える台湾より先に、我が国にとって地政学リスクが高まるかもしれない。

 

日本のビジネスは「インド・東南アジア・アメリカ」にヘッジせよ

中国依存の大きさをどう考えるか?

中国は日本にとって最大の貿易相手国でもある。

 

中国との問題は絶えないが、ビジネス上は今すぐお付き合いをやめるわけにはいかない。

 

しかしながら、日本企業や日本のビジネスパーソンに伝えたいのは、シナリオプランニング、最低でもその頭の体操はしておくべきだということだ。「いくら我々日本が望んでも、安全保障上の理由で中国とビジネスが一切できなくなる時代が来るかもしれない」ということだ。

 

中国の市場の大きさは、今すぐ他国で代替できるものではない。その証拠に米中対立が深刻化しても、完全に相互のビジネス関係を断ち切ることは行なっていない。しかし、武力衝突が東アジアで起こればそうは言っていられないであろう。

 

インド・東南アジア・アメリカを目指せ!

では日本企業はどの市場にヘッジしておくべきか。中国市場のサイズを一国で代替はできない。候補としては、

を挙げる。

 

国連の報告書によると、2023年にはインドが中国を抜いて、人口世界最多になると推計されている。

 

GDPに関しても、潜在的成長率を保守的に見て6%と仮定して試算しても、インドは2024年にはドイツを抜き、2029年には日本を抜く可能性がある。中国に比してインドの弱点はインフラ整備の遅れだが、ここは日本が得意な分野なのでインドの発展に寄与できる。

 

インドにおける日本のプレゼンスはまだ足りない。インドは安全保障でもクアッドのメンバーであり、日米の重要なパートナー。しかし、非同盟中立路線なので味方に引き入れるのも簡単ではない。そういう意味でも経済関係をより親密にする必要がある。

 

次は東南アジアの各国だ。その中でもベトナムが有望だ。製造業が強くEVでアメリカ市場に進出するメーカーも誕生している。ブロックチェーンなどの新技術の導入も進んでいる。日本と同等の1億人近い人口を持ち、東南アジアで最も早く中進国の罠を抜け出して先進国入りする可能性がある。

 

最後に、近くて遠い超大国アメリカを挙げたい。バブル期にはアメリカ市場を席巻し、今の中国並みに恐れられていた日本。今は安全保障では重要な同盟国だが、アメリカ市場での日本企業や日本の商品の存在感は非常に薄い。しかし、このままなくし続けるのは経済的にも安全保障上もとても危険である。

 

世界一イノベーションが進むアメリカ市場で日本企業が勝つのは楽ではない。しかし、素材やオートメーションや精密部品などの分野ではまだまだ勝負ができると著者は見る。リスクを取ってアメリカ企業を買収したり、インドや東南アジアの企業と連携したりしてアメリカ市場を開拓してほしい。