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【本要約】大栗博司【強い力と弱い力 ヒッグス粒子が宇宙にかけた魔法を解く】第1章 質量はどこから生まれるか

目次

ニュートンの主著は「質量」の定義から始まる

古来「存在とは何か」は哲学における基本的な問題の一つです。もともと哲学と科学の間には区別がありませんでしたから、これが哲学のみならず自然科学の基本問題であることは言うまでもありません。

 

17世紀に微積分の発見をニュートンと競ったゴットフリート・ライプニッツは。科学者・数学者であると同時に哲学者であり外交官でもありましたが、そんな知の巨人も「なぜこの世界は無ではなく、そこに何かが存在しているのか」と問いました。物質の最小単位とそこに働く力の秘密を探る素粒子物理学は、まさにその問いかけに答えようとする学問だと言えるでしょう。ヒッグス粒子の発見で完成した標準模型は、その問題に対する現時点での解答です。

 

哲学と自然科学の両面から存在とは何かを追求する一方、人類は存在する物質の量を測る方法を考えてきました。存在とは何かという根源的な問題を考える上でも、その存在を定量的に正しく把握する必要があります。

 

物理学でもさまざまな量を取り扱いますが、その中でも「質量」はきわめて重要な意味を持っています。かのアイザック・ニュートンは、古典力学を確立した主著『プリンキピア(自然哲学の数学的諸原理)』の第一巻の序文で、さまざまな用語を定義しました。その中で最初に取り上げているのが質量です。

 

質量は、運動の変化と関係する量です。質量が大きいと、速さが変化しにくくなります。

 

このように質量はその物質に固有の量であるのに対し、重さには重力の強さも関係します。

 

ところが実際には、質量は地上で測る重さと比例しています。

 

質量と重さの比例関係は、最近の実験では10兆分の1の精度で検証されています。そこで本書でも質量と重さを同じ意味で使います。

 

物質の質量とは原子の質量の和

18世紀後半になると、化学の分野で質量に関する重大な発見がなされました。フランスのアントワーヌ・ラボアジエが、化学反応の前後で物質全体の質量が変わらないことを発見したのです。これが「質量保存の法則」です。

 

この発見は原子論の定量的な検証につながりました。現在ではその原子も「素」の粒子ではなく、その内部に原子核と電子という構造があり、原子核の内部にも陽子と中性子から成る構造があり、その陽子と中性子クォークからできている……とわかっていますが、18世紀後半の時点では、まだ本当に原子が存在するのかすら確証がありませんでした。

 

物質がすべて原子からできているとすると、物質の質量は「原子の質量×原子の数」となるはずです。化学反応では原子の組み換えが起きるが、原子の数そのものは変化しないとすると、ラボアジエの質量保存の法則を導くことができるのです。

 

原子が物質の最小単位だとすれば、原子の重さが質量の単位になるはずです。原子ごとに質量が決まっており、物質の質量はそこに含まれている原子の数で決まることになります。この洞察により、原子論を科学の問題として探求することができるようになりました。

 

ところが、話はそれで終わりませんでした。19世紀の半ばにロシアの化学者ディミトリ・メンデレーエフが原子の周期律表を作成した頃には、それぞれ質量の異なる原子が60種類も見つかっていました。

 

ここまで種類が多くなると、本当に原子が物質の最小単位だとは考えにくくなります。原子は、もっと小さな基本単位から成り立っているのではないかと疑うのが自然です。