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【読書メモ:FACTFULNESS 第1章 分断本能】分断本能を超えて

「途上国」と「先進国」。わたしたちは当たり前のようにこの2つの言葉で世界を分けています。しかし、このシンプルな分類は50年以上も前の世界像に基づいたものだとしたら? ハンス・ロスリング著『FACTFULNESS』第1章「分断本能」は、わたしたちの世界観がいかに時代遅れであるかを突きつけてきます。この記事では、その要点を整理しながら、世界を正しく見るための思考法を紹介します。

あなたの世界観は何年前のもの?

1995年のある日、カロリンスカ医科大学の教授であるハンス・ロスリングは、学生たちにユニセフの年報データを使って各国の乳幼児死亡率を調べさせました。

サウジアラビアは35(1000人あたり)。マレーシアは14。タンザニアは171。

ロスリングが強調したのは、乳幼児死亡率は「社会全体の体温計」だということです。この数字ひとつで、その国の食料事情、水道インフラ、医療アクセス、教育水準が見えてくる。数字は単なる統計ではなく、人々の暮らしそのものを映し出しているのです。

そして授業の最中、ある学生がこう言いました。

「その人たち(途上国の人々)はいつまで経っても、わたしたちのような暮らしをすることはないと思います」

クラスのほとんどがうなずきました。しかしロスリングは驚きませんでした。彼はむしろ、この「分断を強調する意見」を待っていたのです。

1965年と現在 ― 世界は劇的に変わった

ロスリングが示したデータは衝撃的でした。

1965年のチャートでは、世界は確かに「途上国」と「先進国」の2つに分断されていました。「途上国」の枠には125カ国が入り、女性は平均5人以上の子供を産み、乳幼児生存率も低い。一方の「先進国」44カ国では少子・高生存率。その間には2%の人口しかいませんでした。

しかし、現在のデータを見ると世界の姿は一変しています。

  • 全人口の85%が、かつて「先進国」と呼ばれた枠の中に入っている
  • 「途上国」の枠に残っているのは、全人口のわずか6%(13カ国)
  • インドや中国を含む大半の国で、出生率は下がり、乳幼児生存率は劇的に向上

つまり、1965年の地図で今日の世界をナビゲートするようなもの。それが「途上国」「先進国」という分類を使い続けることの危うさなのです。

「分断本能」とは何か

ロスリングはこの思い込みの原因を「分断本能」と名付けました。

人は誰しも、物事を2つのグループに分けたがります。良いか悪いか、正義か悪か、金持ちか貧乏か。世界を2つに分けるのはシンプルで直感的、しかもドラマチックです。メディアもこの本能を刺激します。「極度の貧困層 vs 億万長者」という対比は伝わりやすく、「世界の大多数が少しずつ良い暮らしをし始めている」という話は伝わりにくい。

しかし、データが示す現実は明快です。

  • 世界で最も多くの人が住んでいるのは中所得国
  • 低所得国に暮らしているのは世界人口のわずか9%
  • 人類の75%は、かつて「途上国」と「先進国」の間にあると思われていた中間に暮らしている

世界が分断され、大半の人が惨めで困窮した生活を送っているというのは幻想でしかない。はっきり言って、完全な勘違いだ。

さらに興味深いのは、低所得国の実態も人々のイメージよりはるかに良いということ。低所得国の60%の女子が小学校を卒業し、平均寿命は62歳。多くの人が安全な水にアクセスでき、ワクチンも接種しています。ところが「低所得国の女子の何割が初等教育を修了するか?」という質問に正解できたのは、わずか7%の人だけ。チンパンジーがランダムに選んでも33%は当たるのに、です。

4つのレベルで世界を見る

では「途上国」「先進国」に代えて、どう世界を見ればいいのか。ロスリングが提唱するのは、所得レベルに応じた4つのグループです。

レベル 1日あたりの所得 世界人口 暮らしのイメージ
レベル1 〜2ドル 約10億人 裸足で水汲み、粥だけの食事、子供が病気で亡くなる
レベル2 2〜8ドル 約30億人 サンダル、自転車、灯油ストーブ、子供は学校へ
レベル3 8〜32ドル 約20億人 水道、冷蔵庫、バイク、子供は高校へ
レベル4 32ドル〜 約10億人 車、飛行機、外食、12年以上の教育

大半の人(50億人)はレベル2かレベル3に属しています。極度の貧困(レベル1)にいる人は約10億人で、一方の裕福な消費者(レベル4)も約10億人。世界は「金持ち」と「貧乏人」に二分されているのではなく、大多数がグラデーションの中間にいるのです。

ロスリングはこう述べています。

ドラマチックすぎる「分断された」世界の見方の代わりに、4つのレベルで考える。これこそが、「事実に基づく世界の見方」を支える、ひとつめにして最も重要な柱だ。

分断本能を抑える3つのポイント

ロスリングは、分断本能に騙されないために注意すべき3つのポイントを挙げています。

1. 平均の比較に騙されない

平均だけを見ると分断があるように見えても、分布を見ると重なりがあることが多いです。

たとえば、アメリカの大学入試の数学科目で、男女の平均点を比較すると分断があるように見えます。しかし、点数の分布を見ると、男女のグラフはほとんど重なっています。メキシコとアメリカの所得比較も同様で、平均値だけでは見えない重なりが存在します。

平均の一歩先にある「分布」に注目することで、より正確な全体像をつかむことができます。

2. 極端な数字の比較に騙されない

わたしたちは極端な話に興味を持ちやすく、記憶にも残りやすい。南スーダンの飢餓と自分の豊かな暮らしを比べたり、最悪の独裁政権と最良の民主主義を比べたり。

しかし、両極端な例はほとんどの人に当てはまらないのです。ブラジルでは最も裕福な10%が国全体の所得の41%を得ていますが、4つのレベルに当てはめると、大半はレベル3に属しています。世界的に見ても、格差が大きい国でさえ、分断は見当たりません。

3. 上からの景色に騙されない

レベル4の暮らしをしている人にとって、レベル1〜3はどれも同じように貧しく見えてしまいます。高層ビルの上から見下ろすと、低い建物の高さの違いがわからなくなるのと同じです。

しかし「下界」に住む人にとって、レベル1とレベル2の違いは人生を左右するほど大きい。1日1ドルの暮らしと1日2ドルの暮らしは、わたしたちには小さな差に見えても、当事者にとっては劇的な変化です。自転車ひとつで市場への移動時間が何時間も縮まり、生活が一変する。そのリアリティを想像できるかどうかが問われています。

まとめ ― 分断ではなくグラデーションで世界を見る

『FACTFULNESS』第1章が教えてくれるのは、世界は「分断」ではなく「グラデーション」でできているということです。

要点を振り返ります。

  • 「途上国」vs「先進国」という二分法は50年以上前の世界像に基づいている
  • 世界の75%の人々は中所得国に暮らし、大半は「中間」にいる
  • 4つのレベルで捉えることで、世界をより正確に理解できる
  • 平均値だけでなく分布を見る。極端な例ではなく大多数を見る。上からではなく同じ目線で見る

「知っていると思っている」ことほど危険なものはありません。自分の頭の中にある世界のイメージが、データと一致しているか。そう問いかけ続ける姿勢こそが、ロスリングが本書で最も伝えたかったことではないでしょうか。